プロフェッショナル

中学時代に通い、学生時代には講師もしていた塾で、拙著『旅に出よう』(岩波ジュニア新書、先日9刷になりました)がテキストとして使われていたことを知りました(下リンク)。

変わる進学/「国語4技能」小中学生から
https://www.asahi.com/articles/CMTW1805281300007.html

塾はSAPIX。いまは代ゼミと合体して組織も状況も全く違いそうだし、また小学生と中学生ではいろいろと違うのだけれど、中学時代、出来て間もないこの塾に通えたのは、自分にとって大きな人生の転機だったと思うほどしっくりくるいい塾でした。

受験や塾の現在のあり方には違和感が多いけれど、自分は生徒としてはどっぷり受験に浸ってきた方です。あの時代はなんだったんだろうと思うときもあるし、でも一方で、よかったなと思うことも多々あります。

その中で、先の塾に出会わなければ勉強に対する興味も何も全然違っただろうなと思うぐらい、勉強の面白さを教えてもらった感謝の念があります。数学1問を、ヒントをもらいつつ3時間かけてでもとにかく自分で考え抜くという経験をこの塾でしたことで、その後物事を学ぶ上で自分自身にいろんな変化があったような。

いまは超大手となったこの塾も、自分が通っていたとき(91~92年)はまだ、ある塾から一部の先生たちが独立して作ったばかりのころ。2教室しかなく、教室も整ってないバタバタした借り住まいの中、手作り感満載の状況。

雪が降ったら途中雪合戦の時間も交えたりもし、でもやるときはみな集中して勉強する、すごく楽しい雰囲気だった。勉強ってスパルタ的にやる必要はない、楽しくやってもちゃんとできるようになるんだってこの時の先生たちが教えてくれました。

当時、この塾を率いていた一人である英語のN先生は、ものすごく熱く、志が高い人でした。たぶん、その熱さと不器用なほどの志の高さによって、前の塾から独立してきたのだと想像していたけれど、その後10年以上かけてこの塾が有名になり組織が大きくなって、どんどん変化していく中(学生時代にぼくがここで講師をしていたとき、すでに自分が中学生だったときとはだいぶ違う印象でした。組織が大きくなるとはそういうことなんだなと当時実感)、おそらく彼だけは信念を一切曲げなかった。

他の先生から言わせたらたぶん融通が利かない人ということになるのだろうけれど、そのころ、自分が30代になったころ、旅の途中で一時帰国した際に、何らかのきっかけでN先生と連絡を取り再会することになって会ってみたら、驚くほど当時と印象が変わらなくて、びっくりし、凄いなと感じました。熱くて、志が高いままで。

結局、再び、他の先生と折り合いがつかなくなって彼はまた独立して新しい塾を作り、大学受験の世界へ。そこは広告とかを見る限り、ぼくが当時知っていたSAPIXに近い印象で、なんだか懐かしい感じでした。

「プロフェッショナル」ということを考えるとき、このN先生はよく頭に思い浮かぶ一人です。30年間、おそらくずっと志を貫いている彼のすごさが、自分も仕事をするようになって実感できます。ただ「いい点を取れ、合格しろ」というのではなく、もっと大きな意味で、N先生はじめ、当時の先生たちには背中を押してもらったという気持ちが自分にはあります。

一般論として、いまの塾のあり方についてはいろいろと懐疑的だけれど、当時のあの塾であれば、また行きたいなと思います。