冒険家の荻田泰永さんが書いた『君はなぜ北極を歩かないのか』(産業編集センター)読了。 12人のバックグラウンドの異なる若者(+写真家)を引き連れて、北極圏600キロを踏破する物語。荻田さんと若者たちが、それぞれに葛藤し、真剣にぶつかり合い助け合いながら極限の環境を歩く様子に、とても心を打たれ、気持ちを揺さぶられた。
最近、ある大学の先生が、高校生への講演の中で、「自己紹介をするときは、自分がどう相手に役に立つ存在かを伝えなければいけない。そうでなければ相手に興味を持ってもらえない」と話していた。それを聞いてものすごい違和感を持ったのだけれど、荻田さんが本書に書いている言葉の中に、まさにその逆とも言えることがあった。役に立つかや意味があるか、ではなく、「やりたい」という個人の衝動とその結果の行為自体に価値がある、社会はそれを尊重する場であるべきだ、といったことが、とても説得力のある形で書かれていて、本当にそうだなあと思った。なぜ冒険をするのか、なぜ北極へ行くのか。最後まで読んですごく腑に落ちた。
そういったことを、この極限環境の中で若者たちに全身で伝える荻田さん、それに食らいついて600キロを歩き抜いた若者たち、そして撮影しながら両者を結びつける重要な役割を果たす写真家の柏倉陽介さん、全員に圧倒された。参加者の中の4人が本書の最後に寄せている振り返りの文章もそれぞれよかった。荻田さんのあとがきにあった言葉「旅とは、憧れだ」がずっと心の中を漂っている。
興味もたれた方は是非読んでみてください。