重松清さんとのイベント(5月31日@下北沢B&B)を振り返って

5月31日に下北沢の書店「B&B」で、拙著『吃音 伝えられないもどかしさ』の刊行に際して、作家・重松清さんとトークイベントをやらせていただきました。

そのレポートをすぐ書きたく、早々に書き始めていたのですが、力が入りすぎて?なかなかまとまらず……、アップできないままだいぶ日が経ってしまいました。

自分にとって、重松さんのような大御所の作家の方と一緒にイベント、というのは初めてのことで、しかも聞き手になってくださるというので、本当に自分なんかで大丈夫かな、、という思いが強く、始まる前はだいぶ緊張もしていました。しかし重松さんにお会いして、実際にトークイベントが始まってみると、思っていた以上に、いい具合に進んでいっているらしいことを感じました。

重松さんがぼくに質問をし、それにぼくが答えつつ、重松さんもご自身の経験を話されるという形で進行していったのですが、重松さんのリード、構成、そしてご自身の言葉が素晴らしく、自然と話が深まっていったように思います。

普段、重松さんは、誰かと一緒のイベントというのはほとんどなさらないそうなのですが、今回ご快諾いただいたのは、それだけ吃音というテーマが重松さんにとって重要だったということだと思います。そしてトークが進んでいく中で、重松さんの吃音への思いはとても深く伝わってきました。

重松さんが今回、対談ではなく聞き手であればという条件でお相手をお引き受けくださったのも、ご自身の吃音が関係あるということ(聞き手の方がお話しやすいとのこと)、ご自身の作品をどれか一冊だけ棺桶に入るとしたら、迷うことなく『きよしこ』であるということ、さらには、思うように話せなかったという経験が作家を志したことと深く関係していること、そして、吃音があって作家であるという現在の人生と、吃音がなくて作家でもないという人生を選べるとしたら、きっと吃音がない人生を選ぶだろう、ということ……。

重松さんにとっていかに吃音が大きな問題であったのか。それは想像していた以上のものでした。お話を聞きながら、拙著に登場する方たちの思いと強く重なり、重松さんが書評の中で書かれていた言葉が改めて深く思い出されました。そして同時に、重松さんがこうおっしゃっていたのが、とても印象的でした。

「吃音があってよかったと思うことはないけれど、吃音がある人生も悪くないといまは思える」

それはきっと、吃音で悩んでいる人たちにとって少なからず力になる言葉のように感じました。
ぼく自身もまた、重松さんの思いに同感でした。ぼくもやはり、吃音で悩んできたことと文筆の道に進もうと思ったことは無関係ではないし、それ以外の自分の性格や考え方も、良いと思う点もそうではない点も含めて、吃音と無縁では語れない。そして現状吃音で悩んでなくとも、吃音が自分の根幹にあることを、重松さんのお言葉を聞いて改めて思いました。

また一方、ぼく自身は、重松さんが作ってくださった流れのおかげで、身を任せるようにして話していくことができましたが、あとから思えば、言葉の選び方を間違ったように思う部分や、うまく言えなかった部分が少なからずありました。それでも、重松さんの心の奥底からの言葉と呼応し、その場で思いつく限りの言葉を発することができたようには思います。

それゆえに、うまく言えなかった部分も含めて、伝えたいという意思、そしてその核にあるものを、感じてもらえる場になったのではないかという気がしています。まさに、伝えたいという思いと「伝えらないもどかしさ」とを、重松さんとともに懸命に言葉にしようとした2時間だったようにも思います。

また、話がうまく流れていったように思えた要因には、休憩時間に会場の皆さんから紙面でいただいた質問の素晴らしさ、そして、限られた時間の中で、それらの質問を的確に、時間が許す限り紹介していく重松さんの巧みなディレクションがありました。さらに、参加者のみなさんが本当に真剣に聞いてくださっているのが伝わってきたことが、ぼくにとっても、おそらく重松さんにとっても、話をする上で大きかったように思います。

重松さんには、本の帯と書評を書いていただけただけでこの上なくありがたかったのですが、その上、このような貴重な場を持たせていただけたこと、本当に嬉しく、深く心に残る夜となりました。

重松さん、来て下さった皆さん、B&Bのスタッフの方々、新潮社の編集者のお二方、本当にありがとうございました。

イベント後は、サイン会でいろんな方とお話し(初めての方も、懐かしい方との再会も多数)、そしてその後、新潮社のお二人と打ち上げをしたのちに、余韻に浸りつつ、神楽坂の新潮社クラブに泊まりました。夜、歴史ある和室で一人横になりながら、いつか再びこういう機会を持つことができるだろうかと、寂しさのようなものも、また同時に感じたのでした。

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