読売夕刊「ひらづみ!」23年2月6日に、山本文緒さんの『無人島のふたり』を

読売新聞夕刊の書評欄「ひらづみ!」に、山本文緒さんの『無人島のふたり』について書きました。

山本さんが2021年10月にがんで亡くなられる前の最期の日々につづった日記で、本当に心揺さぶられる一冊でした。この書評も、いつも以上に自分の感情が露わになる内容になりました。未読の方、この記事を読んで興味を持ってくださったら是非読んでみてください。

『自転しながら公転する』も面白かったです。自分の中にある隠しておきたい部分を明らかにされるような、それゆえに、ああ、そうなんだよなあと思い、切なくなるような面白さでした。(記事写真の下に全文)

(以下全文)
著者の山本文緒さんが亡くなったのは2021年10月のこと。当時自分は、彼女の著書を読んだことがなく、ただ名前を知るくらいだったが、彼女を悼む多くの声を聞くうちに、いつか作品を読んでみたいと思うようになった。そして先日、『自転しながら公転する』を本屋で見かけて手に取って、とても引き込まれた流れで本書を知った。

この本は、山本さんが膵臓がんのステージ4という診断を受けた翌月から亡くなるまでの、5カ月弱の間に綴られた日記である。

山本さんは、自身が冒された病を知り、途方に暮れ、なぜと割り切れない思いを抱え、夫と別れたくないと思い、繰り返し泣いた。しかし体調は無情にも悪化を続け、徐々に書くことも困難になる中で、ただその日々を生きるしかない自身について、包み隠さず綴っていった。

悲しみややるせなさの中にユーモアも込められた文章には、山本さんの作家としての執念が宿る。私は、その一文一文を追いながら、彼女が死へと近づく様を何もできずにただ見ているような気持ちになり、何度も込み上げ、読み終わりたくなくて中断した。日記が書かれた最後の日の、忘れがたい5行を読み終えると、ぽっかりと穴の開いた気持ちになって涙が滲んだ。

山本さんがこの文章を遺してくれたことの意味は、読者の多さが物語っているが、私自身強く感じずにいられない。読後もいまも、ずっと思い続けている。今日書けること、そしていまこの瞬間生きていることのありがたさを。

一読者としてのそんな思いが山本さんに届いたら。そう願い、空を見上げる。