よみがえる「お抱え絵師」 京都・妙心寺「退蔵院方丈襖絵プロジェクト」 『新潮45』2012年10月号
薄暗い部屋の中で、老師はまるで背中に虎がついているかのような迫力で座っている。目は開いているか閉じているのか分からない。その姿に緊張し、一歩引いてしまいそうになりながらも、彼女は懸命に言葉を継いだ。/「絶対に負けるかと思い、一日一日やっています。自分との戦いです。絶対に描き切ります。そう思って、痛みに耐えています」/思いが溢れ、涙と鼻水で顔がぐしょぐしょになった。老師は温かな言葉で彼女に応えた。/「人生初めての大舞台だろう。こんなチャンスはめったにないんだ。絵は何百年と残る。自分の分身だ。禅の香りがしてくる絵を描きなさい。そのためにもいま、頑張って坐らないといけないよ」/村林は、涙が止まらなくなった。
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