罪と、時代と ―「生体解剖」の軍医として生きた男の「いま」を追う― 『望星』(上)2004年1月号 (下)2004年2月号
湯浅はその小柄なほうの男を解剖する班の一人として、初めての生体解剖を体験した。解剖の始まる前《軍医たちは皆、談笑していた。男たちが可哀そうだとか、生きた人間を切り刻むなんて恐ろしいことだとか、そんなことを考えたり悩んだりしているような人間は誰もいないいよう》だった。――中略――男の体は切り刻まれ、喉からは泡沫を含んだ真っ赤な血液がヒューヒューという呼吸音とともに噴き出した――。/息も絶え絶えになったその男に、最後に絶命のために心臓に五、六回ほど空気を注入する。だがそれでも呼吸を止めないので、首を絞め、さらにその中国人の腰紐で湯浅はもう一人とともに両方から引っ張り合って首を絞めた。それでも男は呼吸をやめなかったため、最後にクロベルエチールを静脈に打つと、二、三cc入ったところで、男は数回咳き込んでから呼吸を止めた。
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